〔変化をチャンスに 〜 変化を捉える視点と思考 〜〕
第51回:変化の時代
コラム
<はじめに>
社会人生活30年、振り返ってみると驚くほど多くの変化を体験した。
インターネットの登場はその最たるものだろう。入社直後、国内で商用サービスが始まった。続いてウェブ(World Wide Web)が浸透し、検索サービスや電子商取引、SNS(Social Network Service)、その他、数え切れないほどのサービスが登場した。もはや、ネットがなかったころにどう生活していたかを思い出すのも難しい(歳のせいか、笑)。
モバイルの登場もインパクトがあった。スマホはネットへのアクセスを当たり前にした。スマホならではのサービスも普及した。家族とのコミュニケーションは会話より LINE だし(それもどうかと思うが、、、汗)、仕事のやりとりも、スケジュール管理も、銀行取引も、地図情報も、電車の時間を調べるのも(電車の乗り降りも)スマホを使っている。
生成AIの登場に衝撃を感じた人も多いだろう。あれは何なのだろう?(笑)当たり前のように会話し、言葉を(しかも、多国語を)自在に操り、ネット上の知識を探してきてくれる。創作活動もお手のモノだ。その一方で、当たり前に「知ったかぶり」をする姿に「人間くささ」さえ感じる。
こうした変化をどう捉えるのが良いのだろう。
変化をどう捉えるか 〜 変化の捉え方で次のステップに大きな差が生まれる。便利なツールが登場したと考えるか、そこに「意味の変化」を感じ取るか。今は「変化の時代」とも言われる。「変化の時代」を生きていく中で「変化」の捉え方は重要な分岐点になりえる。
本連載では、今回から「変化をチャンスに」を新テーマとしたい。変化をどう捉えるか、その「視点」と「思考」が「チャンス」を掴む大きなヒントになる、と考え、様々な事例や事象を独自視点で分析・考察していく。
本稿はその初回。
以下では「変化の時代」が意味するところを考察してみよう。
<イメージで考える「変化の時代」>
企業経営者は「変化」に直面していることを痛感している。多くの方は、以下のような言葉を聞いたことがあるのではないだろうか。あるいは、ご自身でそう感じている方も多いかもしれない。
「最近、変化が速くてね」
「急激に変化が進んでるね」
「時代とともに、ますます変化が大きくなってきてるよね」
上記の感覚を、以下(図-1)にイメージで表現してみた。横軸は「時間」、縦軸は「社会の変化」を表している。この図は「時間が進むほど変化が大きくなる」ことを表現している。厳密な数値に基づいているものではなく、イメージでしかないが、同様の曲線を思い浮かべる人は多い。多数の方々に図示してもらったが、ほぼ、この曲線に類似していた。
では、変化の時代に「適応する」とは何を意味するのだろう。
上記の図-1に「今ここ」と図示したのが「現在」だとすると、これまでの30年と、これからの30年を図中に表現したのが次(図-2)である。
縦と横の矢印について説明しておこう。「探索」と「深化」という言葉は聞いたことがあるだろう。イノベーションに関連する有名な著書「両利きの経営」にも出てくる言葉だ。それぞれの矢印は「探索」と「深化」に相当すると考えるとわかりやすい。
● 縦軸(赤):探索 〜 既存の認知の範囲を超えて、遠くに認知を広げていく
● 横軸(緑):深化 〜 一定分野の知を継続して深掘りし、磨き込んでいく
(*) チャールズ・A. オライリー, マイケル・L. タッシュマン:両利きの経営 ー「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く
図を見ると明らかだが、時代が進むに従って「縦(赤)」が重要になる。社会の変化が速く・大きくなるので、言われてみればその通りなのかもしれないが。
本稿では「縦」と「横」を正誤・善悪で語るつもりはない。時代が進んでも、横の「深化」は必要である。変わるのは、バランスである。従来は「深化」を突き詰めていれば(加えて、少しだけ「探索」すれば)社会の変化についていけた。今後は「深化」はもちろん、「探索」も今まで以上に頑張らないといけない、と考えるとわかりやすい。
<探索と深化の意味>
前述の図-2は事例や事象を分析するヒントを提供してくれる。実をいうと、本連載で紹介してきた独自分析でも、図-2の「探索」と「深化」の整理に基づいているものが多い。
少しだけ「探索」と「深化」について深堀りしてみよう。以下(図-3)は、探索と深化の考え方をいくつかの視点で言語化したものだ。
<探索>は “道を見つける” ことに相当する。社会視点で変化を捉え(社会がどう変わるか、を考える)、そもそも自分たちがどの道を進むべきか、から考える。言い換えると、自分たちが進むべき道を模索することでもある。Why に立ち返って What を見つける、と言ってもよいだろう。必然的に、思考の起点は「未来」になる。
<深化>は “技を極める” ことに相当する。道具(ツール)が変わると捉え、道具による効率化・最適化を考える。自分たちが進んでいる道は正しい(自分たちが提供する価値は正しい)と信じて、進み方を考えることを意味する。What は決まっていて、How を考える、といえる。多くの場合、思考の起点は「現在」である。
<探索と深化の比較>
前回(第50回)の例で説明してみよう。
前回、DXに関連する経営者の言葉を紹介した。次の言葉は、社会の変化に目を向け、自分たちがどうあるべきかを考えている。これは「探索」に相当する。
「デジタルが浸透するとモノの見え方が変わるよね。
新しい『価値』の考え方が生まれると思うけど、どうだろう?」
一方で、次の言葉はどうだろう。現事業に価値がある(意味がある)と信じて、その業務プロセスを改善することを考えている。これは「深化」に相当する。
「現事業の収益性を上げることが最優先なんだ。
デジタルツールを導入して自動化すればコスト削減が可能だろう?」
他の事例でも同様に比較が可能である。前回(第50回)、キャッシュレス、宿泊サービス、教育・人材育成についても言及したが、いずれも「探索 = 社会の変化を前提に、自分たちのあり方を考える」か、「深化 = 自分たちがやっていることは価値があると信じて、やり方を工夫する」か、で比較したものだった。
本連載の主テーマ「匿名市場から顕名市場へのシフト」も同様の捉え方に基づいている。市場構造が変わると考えて「顕名市場へのシフト」に取り組むのか。あるいは、デジタルが便利なツールだと考えて「匿名市場のまま」効率化・コスト削減を進めるのか。変化の捉え方次第で、次のステップは大きく違ってくる。
なお、繰り返しになるが、「探索」と「深化」を正誤・善悪で語るつもりはない。それぞれの事情や状況によって「今、どちらに取り組むべきか」の経営判断は違う。ただし、その取り組みが「探索」と「深化」のどちらを意図しているのか、なぜ、その取り組みを優先するのか、は明確にしておくことは必須だろう。
<おわりに>
いよいよ新テーマ「変化をチャンスに」がスタートした。変化の時代、チャンスをモノにするためには「変化を捉える視点と思考」が重要である。今回は「変化の時代」の意味を読み解きながら、その基本的な考え方を紹介した。
社会に視点を移すと、直面する構造変革のインパクトに驚く。その多くが変化の捉え方にヒントがあることも興味深い。次回以降、事例・事象の独自分析を交えつつ、変化をチャンスにつなげるための視点と思考について考えてみたい。
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