世界の銀行・FinTech企業のキャッシュレス化・DX化への取り組み <第5回>
コラム~カードを持たない人へのキャッシュレス決済手段の提供~
スウェーデンでは、欧米で主流のクレジットカードによるリボルビング払いとは異なる、分割での後払いサービスが生まれた。無金利で3回、または4回の分割払いができるBNPLである。BNPLとは、Buy Now, Pay Laterと呼ばれる分割返済方法だ。ユーザーは、マーケットプレイスやEC通販で商品を購入する際、購入と同時に代金の三分の一、または四分の一をインターネットバンキングなどを使って支払い、商品を受け取る。残金は2週間に1度(欧米では、二週に1回給与が払われることが多い)、2回もしくは3回に分割して支払う。BNPLの申し込み時に入力する情報は、携帯電話番号とメールアドレスだけ。クレジットカードの番号や有効期限、名前、セキュリティコード、パスワードといった面倒な項目は入力不要である。後払いなのに手数料が不要で手軽なため、若年層を中心に人気を博している。
1.後払いサービスBNPL
後払い決済とは、一般に、品物を先に受け取り、代金は後で支払うことをいう。クレジットカードでの支払いやオートローンなどが該当するが、わが国には、家電や家財、着物、貴金属などを均等分割払いで購入する仕組み(「ショッピングクレジット」と呼ばれる)が1960年代から存在する。ショッピングクレジットは、対面販売店で商品を購入する都度、申込書面に住所や生年月日、勤務先や年収など信用調査に必要な事項を記入し、信販会社の個別審査を受ける。一方、BNPLの均等分割払いは、購入者がオンライン店舗から商品を購入する際に独自の与信ノウハウを用いて審査するため、ユーザーの手間が大幅に省ける。
海外のBNPLは、先に挙げた3回払い、4回払い以外に、3か月から60か月までの均等分割払いも用意されており、この場合は商品代金のほかに、分割払期間に応じた手数料が必要となる。これは、我が国の個別信用購入あっせんに該当すると考えられる。
海外では、耐久消費財や自動車などの高額商品の購入には、販売業者が提供する分割払い(割賦販売)か、銀行のローンが利用されることが多い。我が国の信販会社が提供する個別信用購入あっせんのような毎月均等支払型の返済方式は、リボルビング弁済に比べて、単純でわかりやすく、新鮮なものとして受け入れられたようである。
グローバルデータ(Global Data)によれば、この業界は2026年までCAGR(年平均成長率)33.3%で成長し、5967億ドル(約77兆円)規模に達すると予測されている.
BNPLは、アパレル、電子機器、家電製品など比較的少額取引から始まったが、最近は、食料品などの日常的なカテゴリーでの利用に進む一方、旅行など金額の大きい分野での消費を促進することも狙っているようである。
2.BNPLが拡大する理由
BNPLについては、これまでにも、本連載の中で3回ほど取り上げている。
フターコロナ第6回:コロナ禍で増えたネット取引と後払い決済サービス(1)
アフターコロナ第7回:コロナ禍で増えたネット取引と後払い決済サービス(2)
アフターコロナ第13回:BNPL市場の新しい動き
それらの記事にも記載しているが、海外でBNPLが急速に普及した理由は、利用者に以下のメリットがあるからだと考えられる。
- 銀行口座やクレジットカードアカウントがなくても後払いできること。
- カード情報等の漏洩の懸念がないこと。
- クレジットスコアがなくても利用できること
- 一定回数の分割払いまで手数料の負担がないこと
一方、販売店にとっては、通販申込で入力する情報以外に入力項目が少なく、いわゆる「かご落ち」が少ないことがあげられる。クレジットカードで支払う場合、カード番号や有効期限、名前のほかに、セキュリティコードの入力や3Dセキュアによる認証が必要なことから、途中で入力を止めてしまう(これを「かご落ち」という)人がいるが、BNPL決済を使えば、これが避けられる。
3.多様なBNPLが提供されている
2021年の国内EC市場規模(物販系分野・サービス分野・デジタル分野の合計)は、20兆6,950億円(経済産業省)とされている。このうち、約1兆2千円がBNPLの取り扱いと推計され、2026年度には約2兆円の水準まで拡大すると予測されている(矢野経済研究所2021年度推計)。矢野経済研究所によると、今後は高単価商品の取り扱いを拡大し、長期的な分割払いへの対応が広がるなどして、分割払いを選択しやすい環境が一層整備されるとのことである。
改めてBNPLの後払いサービスの現況を見ると、実に多彩な内容になりつつある。例えば、割賦販売法の適用がない2か月以内の後払いに特化した「短期個別払い型」「マンスリークリア型」がある一方で、割賦販売法の適用がある短期分割払型や高額商品にも対応できる36回払いまでの「長期分割型」のBNPLサービスが提供されている。
【BNPLの分類と特徴】
支払方法等 | 割賦販売法の適用 | 主なサービス | |
短期個別払い型BNPL | 商品到着後1月以内にコンビニ送金、銀行振込などで支払い。手数料無料 | なし | NP後払い、@払い、 後払い.com、GMO後払い |
マンスリークリア型BNPL | 一定期間内の購入に対してまとめて1回の支払い。手数料無料 | なし | atone、こんど払いbyGMO、ペイディ |
短期分割払い型BNPL | 3回程度の分割払い。手数料無料 | 信用購入あっせんの登録必要 | ペイディ(手数料なしは、口座振替、銀行振込のみ)、メルペイスマート払い(定額払い) |
長期分割払い型BNPL | 36回払いまでの分割払い。6回払い以上は分割払い手数料あり | 信用購入あっせんの登録必要 | クラーナ、ペイディあと払いプランApple専用 |
4.海外の法規制の影響
海外での後払いに対する法規制は、主にクレジットカードを利用した信用販売を対象としたものが多い。また、加盟店と提携した提携融資についての規制も見られるが、「分割払手数料の負担がない」BNPL、「13か月、または6か月以内の分割払い」のBNPL、個別与信方式のBNPLなどは、法規制の対象となっていないことが多い。したがって、長期分割型BNPLにおいて、信用情報機関の信用情報やスコアを利用しないで信用供与を行っている事業者が多く存在する国では、過剰与信・多重債務の問題が発生しており、BNPLを対象とした法規制の必要性が議論されている。
イギリスでは、クレジットカード取引やハイヤーパーチェス(買取選択権付賃貸借)を対象とする消費者信用法の規制対象取引にBNPLを追加する見込みである。BNPLが最も普及しているといわれるオーストラリアでも、適正な与信を行うべく、クレジットカードと同様に、消費者信用法での規則を適用することが検討されている。BNPLサービスが多岐にわたるため、規制内容は商品性にあった柔軟な対応が検討されており、消費者が返済不能陥るリスクを抑制することを主目的に、既存の信用法を調整した「責任ある貸し付け」(過剰与信防止策など)を各社に義務化する方向である。アメリカでもBNPLの融資条件の表示や、信用情報機関の未使用による多重債務を解決すべく、クレジットカードと同様の法規制を検討中である。
ひるがえって日本では手数料の有無、返済方法やカード利用の有無にかかわらず、二月を超える後払いには割賦販売法の適用がある。そして、過剰与信を抑えるために指定信用情報機関の信用情報の利用と「支払可能見込額」の調査義務、利用者の保護に欠ける加盟店などを排除するための加盟店情報交換制度、商品等の問題に対する支払い停止の抗弁権などが認められている。このように海外で規制が求められている分割払い型のBNPLに関しては、既に利用者保護制度が整えられている現状にあり、国内のBNPLにおいては改めての法規制は必要ないと考えられている。
5.銀行・決済サービス企業との提携
海外では、BNPLのサービスをさらに拡大するため、銀行機能の活用や銀行との提携、銀行自身のBNPLへの取り組みが盛んである。スウェーデン発のBNPLで、世界最大規模を誇るKlarna は、ドイツで銀行免許を取得し、EU各地で銀行口座とVisa デビットカードを提供したり、同年11月にはアメリカで、2022年1月にはギリスで物理的なカードを発行し、Visa加盟店での購入で、Klarnaの後払いが利用できるようにしたりしている。
シンガポールなどで展開するatomeというBNPL企業は、Pay in 3の各回の利用代金をクレジットカードで支払うことで、支払時期をさらに延長できるなどのサービスを行っている。オーストラリアでは、ウエストパック銀行が2023年2月に既存のクレジットカードをひも付けて、分割払いが可能なデジタルカード「PartPay」を発行した。2週間ごとに3回の分割払いが適用され、利用手数料や延滞金は発生しないサービスを開始するなど、オーストラリアでは銀行とBNPL企業が提携したり、銀行が自らBNPLサービスを開始したりしている。
日本でも、決済業者と提携してチャージ代金を後払いするサービスや、法人向けにクレジットカード払いを利用した「請求書後払いサービス」など新しいサービスが始まっている。今後は金融機関と提携し、預金残高が少ないときにデビットカードの支払いを後払いにするサービスや、1回払いのクレジットや各種料金の後払いができる「請求書後払いサービス」など、海外でも採用されているBNPLサービスの提供が考えられよう。
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