アフターコロナ第15回:意思伝達手段の変化について考える
コラム先日、衝撃的な話を聞いた。某有力地方企業では、当日急病などで休む場合にメールやLINE等のメッセージ機能を使った連絡は認められず、原則、電話連絡が必須というのだ。コロナ禍前であれば、多くの企業が同様だったと思うが、出勤制限でリモートワーク化が進み、一回も対面しないまま成約する営業が珍しくなくなった現在では、この対応を異様に感じてしまった。急病で痛み・苦しみがあるときに、電話で上司に病状を説明したり、当日のスケジュールのリスケ依頼をしたりすることは、当人にとっては苦痛である。電話する時間帯も気にかけないといけない。上司不在の時は、折り返し電話がかかってくる可能性もある。また、休むのは急病だけではない。メール等のメッセージ機能を使用できれば、休むべき判断をしたときに未明でも第一報を入れ、断続的に自分のペースで症状や理由を伝え、リスケその他依頼事項を確実に伝達できる。
なぜ電話なのか
携帯電話のない時代は、起き上がるのもきついのに、固定電話から電話するために電話のある場所まで移動するのがつらかった(独身時代は電話を保有しておらず、公衆電話のある場所まで出向くのが何よりも苦痛だった)。今は携帯電話が普及しているから、ベットからでも電話できるだろうというのが電話連絡を義務化しても問題ないと考えられる理由の一つであろう。
そもそも、急病や事故、身内の不幸など急用が生じても、「有給休暇を申請する場合には、●日前までに申請しなければならない」という就業規則があり、当日申請は原則として認められない。裁判例でも、就業規則で定められている申請期限が「合理的な期間」である限り、申請期限までに行われなかった有給休暇の申請については、それを認めなかったとしても違法ではないとされている。また、法律上、使用者側は有給休暇の取得時期についての「時季変更権」が認められており、繁忙期や人員のやりくりができないなど業務に支障が発生するときは、別の日に休暇を取るよう指示ができるようになっている。しかも、法律上は、労働日は0時からの歴日計算とされているため、9時などの始業時刻前に申請が行われたとしても、解釈上事後申請の扱いになってしまうことになる。
しかし、裁判での争いでは、就業規則で定められた申請期限後の有給休暇の申請であっても、当該労働者の担当する作業内容、性質、繁閑の程度などを総合的に勘案した結果、代替要員の確保などの必要性がなく、事業の正常な運営を妨げるとはいえない場合には、有給休暇を取得させないことを不当と判断される可能性がある。また、年次有給休暇の当日申請についてもこれを拒絶すれば違法と判断される可能性が高いと考えられる。
そこで、会社は事後申請であっても、申請者の事情を確認のうえ有給休暇を取得させることが妥当かどうか判断したいので、始業時間前に電話で連絡して、事情をきちんと説明しなさい、それがあなたのためですよ、ということなのだろう。
メールでの当日の有給申請は認められないのか
しかし、突然、有給休暇取得の必要が生じた申請者にとって、始業前に電話できる状態とは限らない。始業開始直前の時間帯に自宅にいるとは限らず、病気であれば救急車などの移動中や治療中は電話できない。また、身内の不幸などの場合にも、飛行機や新幹線といった公共交通機関で移動中であれば、当人が電話できる時間と相手が受けられるに時間帯のミスマッチが生じる。時間帯が一致していたとしても、電話の受け手が電話に出れない状態の時もあろう。これらに加えて休暇中の対応を短時間の電話の会話だけで依頼するのは難しく、また、正確に伝わるとは限らない。
これら電話連絡の問題点を解決するには、時間帯に制約がなく、双方の状況に左右されず、業務における支援の依頼などを確実に伝達ができ、その後のコミュニケーションにもストレスがないメール等のメッセージ機能を使う方がいいのは自明の理である。当日有給申請を認めるための事情を確認するには、メールで十分だ。必要に応じたさらなる情報収集も、申請者に負担がなく、やり取りの記録がそのまま残り、利便性が高い。
ニューノーマル合わせたコミュニケーションを
コロナ禍で働き方が見直されている中、旧態依然とした休暇申請連絡が見直されていないのは、働き方改革において、他にも大きな弱点があるのではないかと思われてしまいかねない。
2013年から夜間残業を禁止し、早朝残業を推奨する伊藤忠は、岡藤会長が週刊ダイヤモンドのインタビューで「ネットの時代に夜遅くまで残って国際電話で話すことはない。メールに変えればいい。だいたい、今は会社にいなくとも国際電話なんか、どこからでもできる。それよりも早く帰ってご家族と楽しく過ごすこと」と話している。一人一人の都合に合わせた意思疎通が可能な時代にあって、便利なツールを有効に活用し、ワークライフバランスを大事にすることが推奨されているのだ。
なるほど、伊藤忠が学生の就職先人気ナンバーワン企業によく挙げられる理由がわかる気がする。最近の学生からすれば、インターンシップや先輩訪問で旧態依然とした諸慣習が垣間見える企業は、「時代に対応できていない企業」、「将来的な発展性に乏しい」と見えてしまうのかもしれない。
新規開拓先に対する営業もZoomやTeams、Skypeなどを通じて行い、社内のコミュニケーションツールもSlackやChatworkなどを利用する時代である。休暇申請も電話やメールではなく、このようなコミュニケーションツールでの申請を認め、会社の勤怠システムと連動し、PCや携帯電話から有給申請ができ、業務の連携を始業前に確認できるような体制を整えて、業務に支障をきたさないようにする。これこそがこれからの働き方ではないだろうか。
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