Jライブラリー

アフターコロナ第14回:ふたつぼし4047-地方交通網の在り方を考える

吉元利行 コラム

緊急事態宣言中は密を避けるためにテレワークの活用が求められ、出社する場合には、首都圏では電車やバスなどの公共交通機関の利用時間帯の分散が要請された。通勤や通学にバイクや自転車を利用する人も増えており、軽二輪車(126~250cc)の2020年の販売は前年度比127.5%、小型2輪車(251cc以上)が101.4%と自動車(87.8%、軽自動車90.0%)の販売不振と対照的な売れ行きを示している。不要不急の外出の自粛要請で鉄道やバス・航空機・フェリーなどの交通機関は、大きな経済的打撃を受けている。アフターコロナでは、人の移動は元に戻るのであろうか。

地域交通機関の果たしてきた役割と衰退

半生を振り返れば、鉄道やバスなどの交通手段は、日常的な通勤や通学のための手段であり、新幹線や飛行機は出張など業務目的で利用され、いずれも確実かつ早く目的地に着くことが重視されていた。したがって、鉄道やバスは乗り継ぎを便利にし、快速や特急などを運航して、より早く着きたいというニーズに対応してきた。その典型が今や函館から鹿児島を結ぶ新幹線網である。 また、離島向けのアクセスは、昭和の終盤までは船旅がメインであったが、現在は主要な離島には飛行場があり、航空機を利用して短時間で到着できるようになった。

また、本土から近場の島々には、人だけでなく、乗用車・バイク・トラックも乗船できるカーフェリーが活躍していたが、主要な近場の島への橋が建設され、島の人たちもマイカーで通勤・通学ができるようになっている。かつては、島民の足であった海上交通機関は、橋の建設と過疎化に直面して、大変厳しいものとなっており、すでに航路が廃止になったフェリーも数多い。

陸続きになったことで、人口の流出が続くほか、マイカーなどでの通勤も増え、バスも含めた地域公共交通機関の経営は厳しい状況のようである。

高速船とカーフェリーに乗って感じたこと

離島航路ではないが、先日福岡県の大牟田市から、長崎県の島原市まで高速船を利用した。大牟田からJR線と島原鉄道を利用すれば、3時間半から4時間かかるところを海路なら1時間弱で着くという利便性の良さである。にもかかわらず、コロナ禍で人の往来が減っているとはいえ、定員52人のところ到着便に2名、島原外港行は3名しか乗船していなかった。帰路は、島原市の多比良港から長洲港(荒尾市)行のカーフェリーを利用したが、こちらのほうはトラックがメインで家族連れのマイカーが散見される程度であった。カーフェリーは、熊本県や福岡県から島原半島(島原市、雲仙市、南島原市)やその先の長崎市への物資輸送に重要な役割を果たしているが、海路が今後も地域住民の足としての役割を将来も果たせるか、心配になった。

日本全国のJR路線の全路線を乗り潰した筆者としては、地方の鉄道路線が、地域住民の足というより、高齢者と高校生以下の若年層専用の交通機関という位置付けになってきていることを感じる。鉄道は、まだましな方で、地域の路線バスは廃止が続き、存続していても1日に数本しか運航されていないため、乗りたいと思っても乗れないことが多い。したがって、働く地域住民は不便な地域交通機関を使用せず、ますますマイカーに頼るため、家族の人数分の自動車が保有されていることが標準となっている地域も少なくない。

このように乗客対象となる人口が限られ、少子化によって将来改善の見込みも少ないところは、鉄道・路線バス・フェリーなどの廃止が進み、約2年にわたるコロナ感染が将来の不安を掻き立てている。

JR九州のD&S列車の取り組み

しかし、JR九州は、デザイン&ストーリー(D&S)列車の提供を行うことで、地域住民の足としての鉄道路線をなんとか維持しようとしている。豪華寝台列車「ななつぼし」が注目された同社であるが、「ゆふいんの森」「いさぶろう・しんぺい」「九州横断特急」「はやとの風」「SL人吉」「海幸山幸」「指宿の玉手箱」「あそBOY」「A列車で行こう」「或る列車」「かわせみやませみ」「36プラス3」とユニークな名称が付けられたD&S列車を少しづつ増やしている。これらのD&S列車は、「ゆふいんの森」を除き、いわゆる特急列車ではない。「九州横断特急」と名付けられた八代(熊本県)と別府(大分県)を結ぶ列車でさえ、通常の特急列車なら停車しないであろう山間の無人駅にも停車し、ゆっくり買い物などができるケースもある。ほかのD&S列車もネーミングだけでなく、列車デザインや内装に工夫を凝らし、乗車を楽しめる仕掛けをして、単線で山間や海沿いの地方小都市を結んだ運航を行っている。

引用元:https://www.jrkyushu.co.jp/company/info/business/railway04.html

このようなD&S列車に他地域からの乗客や外国からの観光客を呼び込み、地方の通勤・通学路線を維持しているのである。

輸送業の発想の転換も必要

主要都市間では円滑な経済展開のために交通機関はもちろん必要であり、効率的な経営と収益性が求められる。一方で、高齢化と少子化、地方の過疎化が進む地域では、住民の足として効率性・採算性のみで運行が判断されてはならない。しかし、営利企業である限り、大幅な赤字も許されず、だからと言って、自治体などの財政的な支援を当てにしてもいけないという厳しい現実がある。

フェリーの例で挙げた大牟田市は、明治以来の三井三池炭鉱の施設などが2015年にユネスコの世界遺産(歴史的建造物)として指定を受けており、島原市には島原の乱でも有名な島原城や武家屋敷がある。1990年に噴火し大火砕流を発生させた雲仙普賢岳と平成新山などの史跡のほか、最近では、日本一海に近い駅としてコマーシャルで有名になった大三東(おおみさき)駅(島原鉄道)、島原そうめんなど、観光資源も多い。

観光の標準的なコースは「阿蘇山⇒熊本城・水前寺公園⇒大牟田世界遺産⇒島原城・雲仙観光⇒長崎」というもの。来年には長崎駅が終点の西九州新幹線が開通し、将来的には、乗り換えは必要ではあるものの、東京から長崎まで新幹線で行けるようになる。新幹線を利用すると、福岡から佐賀県の鳥栖駅を経由して長崎へ向かい、雲仙や島原には、途中駅の諫早駅から、島原鉄道に乗り換える必要があり、長崎に行くには、また諫早まで戻る必要がある。一方、同じ新幹線ルートでも鳥栖駅の先の大牟田駅または熊本駅まで乗車し、三池港か熊本港から島原半島に渡れば、島原観光、諫早観光の後、長崎に入るので、動線的に無駄がない。坂本龍馬も、長崎に初めて行ったのは、島原経由であり、合理的な行程なのである。


また、カーフェリーでのトラック輸送という収益の柱を維持しつつ、大きな観光資源を結ぶエンターテイメント的な要素を持つ交通手段としての渡船(フェリー)を提供できるようになれば、乗船客数を上げて収益性を確保しつつ、地域住民の足としての役割も維持できるのではないだろうか。地域の足を守るためには、住民だけでなく、いかに乗客を呼び込むか。そこには、わくわく感、ストーリー性などを提供する新しい技術(例えば、電動船)の活用など、新たな顧客つくりのための輸送業のサービスの発想の転換が必要になるのではないか。JR九州は、来秋の西九州新幹線の開業に合わせて、従来の特急が走る長崎本線沿いの有明海、ハウステンボスにつながる大村線の大村湾沿岸を通るルートで、西九州の海の景色と地域の食材を使った軽食を楽しめる「ふたつぼし4047」を投入する。使用するのは、ディーゼルカーのキハ40形と47形である。観光客が地域交通網を支えることを期待したい。

※本内容の引用・転載を禁止します。

pagetop