第20回:「スターバックスの挑戦」
コラム<はじめに>
スイカジュースと酸味のあるパッションティーを合わせたベースに、ホイップクリームをのせる。その上にチョコレートソースと抹茶パウダーをトッピングし、黒と緑のスイカの模様を形づくる。
「富山 まるで スイカっちゃフラペチーノ®」
私の地元、富山のスターバックスで新作のドリンクが登場した。地元で有名な黒部スイカにちなんだフラペチーノだろうか。名前に富山弁が溢れている (爆)。これが全国で発売されるのかと驚いたが、調べてみると、どうやら違うらしい (笑)
沖縄は「沖縄 かりー ちんすこうバニラ キャラメル フラペチーノ®」。塩味のある「ちんすこう」の食感が楽しい1杯。丸ごと1個入った「ちんすこう」に、砕いた「ちんすこう」をトッピング… (試してみたい、笑)
山形は「山形 好きだず ラ・フランス フラペチーノ」。ラ・フランスジュースと氷をブレンドしたベースに、カップの底には幻想的な山形県の雪景色に見立てたホイップクリーム。口いっぱいに広がるラ・フランスのまろやかな甘味が… (これは美味しそう!笑)
スターバックスが2021年6月末からスタートした「47JIMOTOフラペチーノ®」。47都道府県それぞれで、地元の従業員が地元のお客様へのこれまでの感謝と、今後の末永いつながりへの想いをこめて新作を考案したという。
スターバックスのチャレンジは注目に値する。さまざまなロイヤルティプログラムを通して個客へのパーソナライズサービスも提供する。その取り組みは、本連載で繰り返し伝えてきた「顕名」のサービスにもつながる。本稿では、スターバックスが展開するいくつかのプログラムを紹介しながら、それが、ビジネス的にどんな意味を持つのかを考えてみたい。
<スターバックスのロイヤルティプログラムの挑戦>
スターバックス 〜 1971年にアメリカ合衆国ワシントン州シアトルで開業した、世界規模で展開するコーヒーのチェーン店で、シアトル系コーヒーの元祖である。店舗数は現在、国内に1,665店舗。グローバルには90カ国、33,000店舗あるという。
スターバックスはパーソナライズサービスに力を入れている。代表的なものは、2017年に開始したロイヤルティプログラム「スターバックス リワード」である。
スターバックス コーヒー ジャパンのデジタル戦略本部 清水氏 曰く:
「毎週500万人のペースでお客様に来店いただいている。常にその規模のお客様とつながり続けるためには、デジタルを活用したパーソナライゼーションが必要だった。」
(参考) https://markezine.jp/article/detail/36795
スマホアプリは個客とのつながりを生み出す。現在、スターバックスリワードの会員数は750万人。スターバックスリワードは、アプリを介した1to1コミュニケーションを促進するために展開された。
スマホアプリは「個客とのつながり」を生む。スターバックスリワードとスターバックスカードを組み合わせることで、いつ、誰が、どんな嗜好でコーヒーを飲んでいるのかを記録できるし、その個客がどんなフレーバーが好きなのか、その傾向は容易に把握できる。
2019年に導入された事前注文・決済サービス「モバイルオーダー&ペイ」も「つながり」を意識したものだった。混雑時に列へ並ぶ時間がない顧客にスムーズな商品提供を行えるようになったことで、それまでつながることができていなかった顧客と (しかも、特定された個人である顕名個客として) つながりを持てるようになったことは大きな意味を持つ。
上記は、本連載で繰り返し紹介している「つながりの市場」の考え方であり「パーソナライズサービス=顕名サービス」であることは容易に理解できる。データに基づくパーソナライズが狙いであり、アプリを通して、さまざまな個客体験をデジタル化し、また、特別な個客体験を提供しようとしていることは明らかである。
<マイコーヒーパスポート>
実は、スターバックスでは長らくマイコーヒーパスポートなるものが提供されてきた。コーヒー豆を購入した顧客が、コーヒーを一つひとつ味わって、その感想を書き留めていくテイスティングノートの役割を果たす。単なるコーヒー豆の販売ではなく、コーヒーを楽しむ「体験そのもの」を提供しようとしていることが理解できる。
今では、マイコーヒーパスポートのモバイル版も提供されている。いつ、どの店舗でコーヒー豆を購入したかを含め、その個客一人ひとりのコーヒー体験を記録し、参照できることは、パーソナライズサービスを提供する際の大きなヒントになる。
<マイストアパスポート>
2020年12月、マイストアパスポートが登場した。店頭でWeb登録済みのスターバックス カードで商品を購入すると、オリジナルスタンプが集まるデジタル上のサービスである。スタンプのデザインはそれぞれの店舗ごとに異なる。スタンプのほか、利用店舗数や利用回数などが一定条件に達すると表示される「メダル」機能もある。
2021年6月末、「都道府県メダル」が追加された。各都道府県の店舗を利用することでメダルが付与される。また、北海道・東北、関東、中部、近畿、中国・四国、九州・沖縄といった6種類のエリア内の都道府県を全て利用すると「エリアメダル」が獲得できる。
冒頭の「47JIMOTO フラペチーノ®」は「都道府県メダル」に連動した取り組みとして展開された。なるほど、たしかに、地元のフラペチーノは試してみたいと思うし、私のように出張が多い人間は (それでも、コロナで激減したが…)、出張先で、ご当地版フラペチーノを試して都道府県メダルを集めてみようか、という気になってくる。
スターバックスのアプリ戦略は、コーヒー (ドリンク) の販売ではなく、体験の提供を目指している。例えば、大阪に出張に行った時に、スターバックスのコーヒーが好きだから現地のスターバックスに行く、というよりも、ご当地版フラペチーノを試し、都道府県メダルを集める (空白地を埋める) 楽しみがあるからスターバックスに立ち寄る。モノとカネの交換ではなく、体験全体がデジタル化されているからこそのパーソナライズサービスである。
私も、都道府県メダルは集めてみようと思っている。今後、出張があるたびに、ご当地のスターバックスに立ち寄ってみたい。自分の都道府県マップの空白地帯が埋まっていくのはちょっとした楽しみになりそうだ。といっても、サービスがスタートして間もないこともあり、まだ都道府県メダルは「東京」のものしかゲットできていないのだが (笑)
<おわりに>
今回はスターバックスが進めるパーソナライズサービスの取り組みを紹介した。冊子版のマイコーヒーパスポートの存在が物語っているように、デジタルが浸透する以前から、同社は顧客体験を重視する企業だった。デジタル化は個客接点を生み出し、個客とのつながりを活かした新しいサービスの提供を可能にした。スターバックスリワード、マイストアパスポート、さらには、その中の都道府県メダルのサービスを促進するための仕組みなど、スターバックスの挑戦は目が離せない。
スターバックスの顕名サービスの実装には、同社の企業理念が反映されているように見える。顕名サービスで大事になるのは、パーソナライズされたサービスを評価することであるが、同社の評価指標は特徴的である。1つは売上への貢献 (ビジネス軸)。これは必然だろう。2つは個客満足度 (お客様軸)。本連載で個客価値・個客体験として紹介してきたものに相当する。最後は店舗の従業員の視点 (パートナー軸) だという。なるほど、パートナー軸を大事にするところは、さすがスターバックスである。
顕名サービスは単なる技術の話ではない。ビジネスの、さらには企業理念をどのようにサービスに落とし込んでいくのか、が先にあり、それを実現する手段がデジタル技術であることを忘れないようにしたい。
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