第17回:「あなたの肌に、ピッタリのコスメが見つかります。」
コラム<はじめに>
ZOZOGLASSなるものが登場した。今度は眼鏡か??
あのZOZOが新たな取り組みを開始した。本連載の第5回に「個客一人ひとりに合わせた商品」と題して旧ZOZOSUIT (*) とZOZOMATを紹介した。今度はZOZOGLASS。見た目にカラフルなメガネを無償で配るという。ZOZOがメガネを!?ちょっと驚いた。
(*) 現在は配布終了。その後 ZOZOSUIT 2 を発表し、パートナー企業募集中。
ZOZOGLASSは個客の肌の色を計測するツールである。見た目はメガネだが、視力矯正が目的ではない (レンズもない、笑)。このツールを使うことで、計測した肌の色に1番近いファンデーションをオススメしてくれる (ZOZOは同機能を「マッチング」と表現) という。考えてみると、ZOZOMATも個客にあわせた靴をオススメするためのアイテムであってマットを売るのが目的ではない。アイテムを無償で提供して、必要なサイズを「計測」することで、個客一人ひとりにあわせて商品を提案する、という考え方は同じである。
「あなたの肌に、ピッタリのコスメが見つかります。」
ZOZOGLASSのコンセプトは秀逸である。お店に並んでいる限られた商品の中から自分に合うものを選ぶのではなく、個客の肌の色にあった商品 (現在はファンデーションの一部が対応) をZOZOGLASSに対応する様々なブランドのアイテムの中から見つけてくれる。顕名時代「個客一人ひとりにあわせた商品やサービスを提供することが重要」とこの連載でたっぷりと (笑) 伝えてきた。旧ZOZOSUIT、ZOZOMATそして、ZOZOGLASSは、そのど真ん中を行くサービスモデルである。
今回は、ZOZOGLASSを紹介しつつ、ZOZOが描く個客一人ひとりを大事にするサービスモデルの将来像についても考えみたい。
<ZOZOGLASS登場>
ZOZOGLASSは登場と同時に注目を集めた。2021年1月29日、ZOZOGLASSは自宅にいながら簡単にフェイスカラー計測ができるアイテムとして発表された。「自分の肌の色にあったコスメを選びたい」、その思いは多くの人が考えること。予約開始から10日で40万件の予約が殺到したことから、その人気の様子が伺える。
◇https://corp.zozo.com/news/20210208-13008/
ZOZOTOWN上のコスメ専用モールとしてZOZOCOSMEも登場した。ZOZOCOSMEはコスメの新しい購入体験を実現するモールとして、2021年3月18日にオープンすると発表された。ZOZOGLASSの計測結果を参照し、ZOZOCOSMEで販売される商品から自分の肌に合ったものをオススメしてくれるらしい。(第一弾はファンデーション)
◇https://corp.zozo.com/news/20210129-12888/
ZOZOGLASSの仕組みを簡単に紹介しておこう。ZOZOGLASSは見た目にも華やかなカラフルに彩られたメガネ型の計測ツールである。ZOZOGLASSをかけた状態で、スマホで自分の顔を自撮りする。上下左右、向きを変えながら写真を撮る。それだけで、自分の肌の色を計測できるという。
ポイントはマーカーとカラーチップ (カラフルな色を構成するパーツ) にある。通常、周囲の明るさや光の当たり具合で肌の色の見え方は大きく変わる。ZOZOGLASSはカラーチップの色を基準としながら、実際の肌の色を計測する。顔の向きを変えながら自撮りするのは、顔の各パーツを含めて高精度に計測するため、と思われる。
スマホひとつで肌の色を計測することはスゴいことらしい (実際、スゴいことだと思う、笑)。ZOZOの公式ページに次のような記述がある。環境光に影響されないことは前述の通りだが、ヘモグロビン量とメラニン量を推定している、などの記述もあってなかなか興味深い (といいつつ、私自身は専門的なことはわからないのだが、笑)
“ 肌の色を構成する成分であるヘモグロビン量とメラニン量を画像から推定し、肌の色を計測します。ZOZOGLASSを使用することで環境光に影響されないため、オンラインでも高精度の計測が可能です。”
肌の色はかなり詳細に分析できるようだ。ウォーム/クール、明るい/濃いの2軸のグラフ上で表示するフェイスカラーをはじめ、ヘモグロビンとメラニンの相対値、頬・顎・鼻・唇・額のパーツごとのカラーの計測。ブルーベースやイエローベースといったパーソナルカラーも表示されるという。これも現時点での機能である。ソフトウェア的な処理なので、技術の向上とともに、さらに詳細かつ精度の良い分析に期待がかかる。
<ZOZOGLASSのコンセプト>
ZOZOGLASSのコンセプトを「取引モデルの変化」の視点から考えてみよう。ZOZOGLASSは、その仕組を通して「事業者が個客一人ひとりを認識する」ことを可能にする。事業者が「あなた」と「あなたの肌の色」を特定し「ピッタリ」のコスメをオススメする。旧ZOZOSUITやZOZOMAT同様、ZOZOGLASSも極めて軸のしっかりした「顕名取引」の先駆的な事例である。
比較のため、従来のコスメ販売についても触れておこう。ショップでコスメを購入する典型的な購買パターンと、ZOZOGLASSによる購入パターンを比較すると、その違いが明確になりそうだ。
ショップでコスメを購入する際、従来は「匿名」での取引だった。お店は、できるだけ多くの人に合うような標準的・平均的なものを中心に商品を揃える。顧客はその時、その場にある商品の中から、自分に合いそうなものを選ぶ。お店側の商品の陳列の優先順位は「多くの人のニーズにあうもの」や「多くの人に人気のあるもの」である。
ZOZOGLASSでオススメされるコスメは「あなたの肌に、ぴったり」のものである。個客一人ひとりを特定し、個客の肌の色に近い商品をみつけてくれる。「平均的に多くの人が求めるもの」ではない。「あなたのため」であり、それを可能にしたのが、ZOZOGLASSによる肌の色の計測技術である (補足すると、ZOZOTOWNのようなネットショップでは、店舗スペースの制限がなく多様なニーズに応えやすいことも注目したい)。
<個客接点のデジタル化>
顕名市場へのシフトを加速する鍵は「個客接点のデジタル化」である。本連載で繰り返し紹介してきた顕名取引では「個客一人ひとりに特別なサービスを提供する」と説明してきた。個客接点のデジタル化とは、個客接点を増やし、個客に紐づくデータを (デジタル技術を活用して) を蓄積していくことで、個客体験を創出することを意味する。
ZOZOは「個客接点のデジタル化」の先駆者である。旧ZOZOSUIT、ZOZOMAT、ZOZOGLASSは、いずれも個客に紐づくデータを取得し、個客一人ひとりにあわせた商品をサイト上に表示する。ファッション、靴、コスメなど、従来はデジタルと縁遠いとされた業種であっても、新たに個客接点を創り出し、顕名取引にシフトしようとしている。
アナログな業界であっても、デジタル化を考える時代になった。ZOZOが示してくれたように、デジタルとかけ離れた世界であっても、工夫次第で、個客を知り、個客に合わせたサービスを提供することは可能である。ZOZOが無償で配布しているものはデジタルデバイスではない。スマホの写真機能を使ってデジタルデータに変換しているだけである。今後、さらにいろいろな業界で個客接点が創出され、データ化されることを通して、顕名取引が浸透していくことだろう。
<おわりに>
ZOZOの取り組みは極めて興味深い。旧ZOZOSUIT (ZOZOSUIT 2)、ZOZOMAT、ZOZOGLASSとZOZOの計測テクノロジーの挑戦は続いているが、その芯は明確である。デジタルとは縁遠いとされた、ファッション、靴、コスメ分野で、明示的に個客接点を創り出し、データ取得を通して、個客一人ひとりに特別なサービスを提供する。その挑戦は理にかなっている。
将来、ZOZOがどんなサービスを提供するかを考えるとワクワクする。技術の進歩は必然である。取得・参照できる情報は増える。コストも下がる。圧倒的に簡単に、もっともっと高度なことができるようになる。
時代の最先端をいくZOZOから目が離せない。
(写真:ZOZO提供)
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