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アフターコロナ第9回:交通機関での新しい非接触決済が拡大している

吉元利行 コラム

アフターコロナシリーズ第1回の連載の最後に、海外では電車や地下鉄、バスなどに乗車する際に、iPhoneのApplePayを使って非接触で運賃の支払ができ、わざわざ現地の交通系プリペイドカードや切符を購入する必要がなくなりつつある旨記載した。その後、わが国でも、ようやく一部区間のバスが、そして南海電鉄などの鉄道でも、リップルマークの付いた国際クレジットカードやデビットカード(それらを搭載したスマートフォン)で、改札口を通過・精算できるようになった。今回はコロナ渦中での接触を避け、訪日外国人の今後の利便性を考えて導入されたスマート改札を紹介する。

日本では、Felica方式が主流

わが国では、交通機関の運賃決済用のツールとしてSuicaやPASMOなどの鉄道系やバス系のFelica方式電子マネーが導入されて久しい。JR系の電子マネーは、全国の鉄道で相互に利用できるようになり、Suicaの場合は、全国の私鉄やバスなどでも利用でき、非常に便利になっている。

しかし、日本在住者にとって便利なSuicaは、海外銀行の発行するVisa、master card、銀聯カードなどのクレジットカードやデビットカードでは購入できず、日本円かJR東日本の発行するビューカードでしか購入できない。したがって訪日外国人は、日本円に両替をして購入する必要があり、両替窓口とSuica購入窓口で人との接触が必要になる。手続きも面倒であり、為替手数料もクレジットカード利用に比べると高くなる。また、アプリで予約し、決済もできるUBERも利用できないため、国際クレジットカードが利用できるタクシーを選んで乗車しなければならず、訪日外国人にとって空港から主要都市までの移動はとても不便である。

従量制の料金体系がネック

訪日観光客が空港に到着してから、両替せずに、スムーズに目的地に行くためには、世界共通で利用されている国際ブランドのクレジットカードやデビットカード、プリペイドカードを電車やバスの乗車賃の精算に利用できるようにする必要がある。欧米では、エリア制の運賃体系を採用していることが多く、エリア内では均一料金なので、一律に料金設定したカード端末機(自動販売機に設置してあるような小型端末機)で精算が可能である。また改札口を利用するなら、少々複雑な料金体系でも対応可能と考えられる。

しかし、日本国内のバスや電車は、走行距離に応じた従量制の運賃が多い。運賃は乗車した停留所や駅と下車した停留所や駅を特定し、走行距離に応じて計算され、各社の運賃テーブルに基づき運賃が適用される。この運賃をカード決済するには、運賃の計算と精算を行う端末機の設置、端末機の電源やWi-Fiの利用などインフラの整備の必要があった。

これらの問題をクリアして、国内で初めてVisaのタッチ決済を導入したのが、みのりホールディングである。2020年7月29日より傘下の茨城交通の高速バス(勝田・東海-東京線の全便)で運用を開始、その後、岩手県北バスの106急行(盛岡-宮古)、福島交通と会津バスの会津若松・福島・相馬-仙台空港線で導入された。運賃計算は、バスの無線LANを使ったタブレットのGPS機能を利用して行われ、合わせて、PayPay、Alipay、LINE Pay、楽天ペイも利用できる。2021年1月20日には、北都交通(札幌市)が札幌市内から新千歳空港および丘珠空港への「空港連絡バス」に、同3月20日に永福バス(福井市)が福井駅(福井市)と永平寺(福井県永平寺町)をつなぐ永平寺ライナー、一乗谷朝倉特急バス、福井駅と小松空港(石川県小松市)をつなぐ福井小松空港線にVisaのタッチ決済を導入している。

鉄道も追随へ

バスの場合、導入コストの問題もあって、市内バスなど、低料金区間にはまだ導入できていない。一方、鉄道で最初に導入したのは京都丹後鉄道(京都)。2020年11月に天橋立など京都府北部の観光ルートを走る全線でVisaのタッチ決済で運賃を支払えるようにした。

これに続き、南海電鉄の一部駅での実証実験も始まった。実証実験では、南海電鉄の16駅に専用改札機を設置し「Visaのタッチ決済」「南海デジタルチケット」を用いて入場・出場ができる。

【南海電鉄の利用可能駅(オレンジ) 同社HPから】
リップルマークの付いたクレジットカード等非接触で利用できる。

Visaのタッチ決済対応のクレジットカード、デビットカード、プリペイドカードだけでなく、スマートフォンのウォレットや、ウェアラブルデバイス(Watchやリングなど)を持っていれば、事前登録不要で利用できる。

また、福岡市交通局が運営する福岡市地下鉄では、「天神・博多間1日フリーきっぷ」をポスターのQRコードやサイトからクレジットカードで購入し、タッチ決済対応のVisaカードやQRコードを駅係員がいる改札窓口の専用リーダーにかざすだけで乗車・下車できる試行を始めている。

コロナ禍のいい影響

コロナの感染拡大で、現在は訪日観光客がほとんど見込めないが、コロナワクチンの接種が進めば、再び外国人観光客が数多く訪れるのは確実である。日本独自の非接触決済だけでは、コロナ以前のように空港や観光地周辺の駅で、外国人観光客が慣れない切符購入に戸惑ったり、有人窓口に長蛇の列をつくったりする光景が再現されかねない。また、交通系のFelicaカードは、地方に行くと意外に使われていなかったりする。

しかし、訪日外国人のほとんどが保有する非接触の国際ブランドのクレジットカードやデビットカードで運賃が決済できるように国内の隅々まで整備するなら、買い物も移動も大幅にスムーズになり、密も避けられる。両替や券売機を操作する必要がないため、人や物との非接触で感染症対策になるなど、メリットも多い。 

諸外国に遅れていた国際ブランドの非接触決済であるが、コロナの感染拡大防止策として、スーパーのレジ、コンビニ、自販機など様々な分野で非接触決済が推奨された結果、かなりのスピードで進みつつあり、Visaの場合、すでに約半数の取引が非接触決済になっている。東京2020オリンピック・パラリンピックがどのような形で開催されるかは不明であるが、Visaが公式スポンサーの1社であり、非接触方式のメリットが認識され、拡大の場となることは間違いない。 日本のコロナ禍は、間違いなく新たな非接触決済を推し進めたといえよう。

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